Q16. 試料が水分を含むとうまく測定できないのはなぜ? そして凍らすと測定できるようになるのはなぜ?

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 ESR装置で使用される電磁波は、Xバンドと呼ばれる9.4 GHz付近のマイクロ波です。また水分子は、酸素と一つと水素二つで構成される、くの字に折れ曲がった極性分子です。この極性分子は、プラスとマイナスの電気が少し距離を置いて存在している電気双極子と呼ばれる構造をもったもので、周囲の電場の変化に合わせて、その配向を変えようとする性質を持ちます。

 極性を持った水分子試料にESR測定のためのマイクロ波を照射すると、水分子の双極子がマイクロ波の電場により振動し、双極子回転による緩和現象による発熱を起こします(多くの水分子がそれぞれ動こうとして起こる摩擦発熱のようなものです)。その結果、試料に与えたマイクロ波は、ESR測定用として使用されるだけでは無く、水分子の発熱のために使われてしまうこととなり、ESR計測が旨く起こらなくなります。

 この現象は誘電損失と呼ばれており、電子レンジでの食品加熱に応用されています。電子レンジでは、水分子によるマイクロ波のエネルギー吸収(誘電損失)によって食品が加熱されるわけです。

 氷は水と同じ分子構造を持っていますが、固体であるので、分子の電磁場による振動が制限されるため、マイクロ波による誘電損失は小さくなります。よって、凍結試料では、マイクロ波による加熱は制限され、大部分のマイクロ波はESR測定のために使われます。そこで、凍結状態にした氷状の試料で、ESR測定を上手く行うことができます。またマイクロ波共振器の中では、定在波となった電磁場の分布があり、ESR試料はマイクロ波による高周波磁場の高い位置(同時に高周波電場が小さい位置)に置くため、誘電損失が小さくなります。

 水溶液試料を凍結させる場合は、水の膨張による試料管の破壊に注意しましょう。