Q23. マーカー試薬とはなに?

Category: ESR50Qs

 マーカーは、一般的には目印・標識として利用できるもの、あるいは目印・標識をつけるものを指す言葉です。では、電子スピン共鳴(ESR)測定におけるマーカー(ESRマーカー)とはどういうものなのでしょうか?

 ESR測定では、静磁場の下で。試料に電磁波が吸収される時の磁場の値(共鳴磁場)と電磁波の周波数から、実験パラメータとして試料に固有なg値が求められます。さらに電磁波の吸収の程度から、試料に含まれるスピン数が求められます。g値を周波数計数器や磁場測定器を用いずに簡便に求める方法として、別に用意したg値のわかっている標準ラジカル(gマーカー)とのスペクトル上での位置関係から、試料ラジカルのg値を求める方法があります。

 ESRマーカーのg値やスピン数は、あらかじめ分かっています。これらの値と測定で得られた試料の値とを比較することで、簡単に試料のg値やスピン数を計算できます。代表的なESRマーカーとしてMn/MgO(マンガン(Mn)マーカー)の標準試料が有ります。これは非磁性の酸化マグネシウム(MgO)の中に、磁性を持つMn2+ が含まれています。Mnの原子核はスピンを持つため、6つのESRの共鳴磁場を示し、それらのg値は分かっています。これらの値を用いることで精度良く試料のg値を求めることが出来、良く利用されています。

 gマーカーに用いる試薬としては、DPPH(2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル)、TCNQ-Li(テトラシアノキノジメタン リチウム塩)、あるいはMn/MgO(マンガン(Mn)マーカー)の標準試料(非磁性の酸化マグネシウム(MgO)の中に、磁性を持つMn2+が含まれている)などがあります。

 DPPHとTCNQ-Liの粉末はいずれもESRで1本のシグナルが検出され、g値はDPPHで2.0036、TCNQ-Li で2.0026です。試料をこれら試薬のうち1つと一緒にESRで測定すると、スペクトル上に試料のシグナルにgマーカーのシグナルが重なります。試料とgマーカーのシグナルの間隔から試料のg値を求められます(図)。

 また、MnOに含まれるMn2+は、周波数によってシグナルの形が変わりますが、Xバンドでは6本のシャープなシグナルが検出されます。このうち低磁場側から3本目と4本目のシグナルの間に有機ラジカルのシグナルが入るためマーカーとしてよく使われます。見かけのg値は、3本目が2.034、4本目が1.981で、試料のシグナルの両側に現れるこれら2本のシグナルを使って、より精度よく試料のg値を求めることができます。装置によっては測定部にMn2+マーカーが取り付けられており、スペクトルから装置付属の解析ソフトによってg値を求めることができるようになっています。