Q27. ホールセンターと電子中心
電子のg値(g因子)はESRの共鳴条件 hν=gμβH にあらわれる係数です。hνはプランク定数とマイクロ波の周波数の積で、1個の不対電子スピン(スピン角運動量をもつ)において1回共鳴吸収がおこるときのマイクロ波のエネルギーです(マイクロ波光子のエネルギー)。μβ は、電子スピン一個の小磁石の強さ(ボーア磁子)、H は共鳴したときの静磁場の大きさです。実験装置上では、νがマイクロ波発振器でセットしたマイクロ波周波数(~9.5 GHz)で、h, μβは定まった物理定数、Hが電磁石で与えた共鳴時の静磁場の大きさです。
束縛を受けていない自由電子の場合、g=2.002319 と計測されています。電子スピンは量子力学で1/2なので、これは2となるべき数値なのですが、理論的には量子電磁力学的な補正を含めて説明されます。実測では、マイクロ波の周波数νを周波数計で測定し、共鳴吸収を起こしているときの静磁場Hをテスラメーターで測定すればg値が計算できます。よってg値でそれぞれのスペクトルを区別することがでます。ESRスペクトルでは、それぞれの信号の磁場位置でそれが、なんの不対電子によるものであるか、帰属を明らかにしてもいいのですが、装置が異なる場合、共振器の差などによって、磁場強度やマイクロ波周波数が異なる場合があります。すると同じESR信号が異なった磁場に出てしまうので比較が難しくなりますが、g値を用いると共通の値で議論ができます。
試料中の不対電子は、その化学的な結合状態、軌道運動や、周囲の原子の価数や構造的な欠陥(原子の抜け穴)などにより、様々な環境にあって、それぞれが感じる磁場強度が異なる場合があります。そこである範囲の磁場にわたってESRスペクトルが得られます。結晶格子で不対電子のある部分を中心(センター)と呼びますが、ESR信号が g=2.002319より大きい位置にある場合を、不対電子のために電子が通常より多いという意味で電子中心、電子数が少なくなっている逆の場合をホール中心としてわける場合があります。