Q33. ESRで放射線量・年代測定ができるのは
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ESR50Qs
通常、物質中の電子はペアになって原子の周りの一つの軌道に収まっています(対電子)。ESRでは、ペアになっていない不対電子を測定します。不対電子は、小さな磁石のようなもので、電磁波の高周波磁場によって動かされ、その向きを変えるとき、マイクロ波の吸収が起こるのです。外側の軌道にあって電子1個になっているものは、対電子を作ろうとして反応性が高くなっており、ラジカルとか活性種という呼び方をされる場合もあります。
さて、対電子から不対電子を作るには、軌道にある対電子を、一個はじき出す(電離)必要があります。これはγ線などの電離放射線を受けることで起こります。放射線を多く浴びた物質は、電離を重ねているので、不対電子が多くたまっています。不対電子の数は、ESR信号の強度に反映されるため、放射線の被曝線量がこれでわかることになります。実際は、物質ごとに放射線量とESR信号のグラフを作って、被曝線量計として用いることができます。アミノ酸の一種であるアラニンや砂糖、歯エナメルなどはESR放射線線量計として用いることができます。
ESR年代測定では、化石(骨)や鉱物を用いて、自然放射線を浴び続けた物質中の、長時間安定な反応性の低い不対電子を対象とします。単純には、被曝線量を別に推定した1年当たりの線量で割れば年代値が求められます。人類学などで重要な第四紀後半(~100万年)の年代測定に用いられています。