Q37. 交換相互作用とか磁気双極子相互作用ってなんですか?

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 交換相互作用と磁気双極子相互作用はどちらも電子スピン間に働く相互作用です。

 交換相互作用とはスピンの向きを揃える量子力学的な相互作用です。S=1/2の電子スピンが2つあるとき交換相互作用が十分強ければ、S=1(スピンが同じ向きに揃った状態)とS=0(スピンが反対向きに揃った状態)の状態を作ります。S=1とS=0のどちらを安定に作るかは交換相互作用の符号によって決まります。また、結晶を構成する原子・分子間でスピンが全て同じ方向に揃うと磁石(強磁性体)になります。

 磁気双極子相互作用とは古典力学でいうと、いわゆる磁石が引っ付く/反発する力です。磁気双極子相互作用はS=1以上の固相系のESRで観測されるゼロ磁場分裂の原因の1つとなります。

 簡単な例として励起三重項ベンゼンについて考えてみましょう。ベンゼンの励起一重項状態と励起三重項状態のエネルギー差はおよそ 10000 cm-1です。このエネルギー差の半分が交換相互作用になります(5000 cm-1)。一方、励起三重項ベンゼンのゼロ磁場分裂のエネルギー(D値)はおよそ 0.16 cm-1です(ベンゼンは重元素を含まないためスピン軌道相互作用がなく、磁気双極子のみ働くと仮定した)。このように交換相互作用と磁気双極子相互作用は電子スピン間に働く相互作用という点では同じですが、エネルギーのオーダーがケタ違いに離れていることがわかります。