Q44. 生体とESR

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 電子スピン共鳴(ESR)装置は不対電子を有する物質、例えばラジカルや遷移金属イオンなどを検出・同定できる唯一の分析機器である。鉄、銅、マンガンなどの遷移金属は生体に重要な金属でタンパク質に結合して働きますので、ヘモグロビンなどタンパク質との配位構造がESRを用いて研究されて来ました。配位構造をESRで調べることで、タンパク質の種類を逆に決めることもできます。

 また放射線によって生じた活性酸素や短寿命の生体物質のラジカルも研究対象になっています。生体内では活性酸素が様々な場所で生成されDNAやタンパク質と反応して損傷を与えます。活性酸素を安定な物質にして調べるスピントラッピング法や生体内での存在場所を調べるESR画像法が開発されています。

 植物では光合成の化学反応は光によって引き起こされますが、初期状態は葉緑体などの膜にあるタンパク質に生じるラジカル不対電子です。また渡り鳥をはじめ生物は、光受容タンパク質に光で生成したラジカル不対電子を用いて、地磁気を受容して方角を知ることが示唆されています。この研究にもESRが使われています。

 通常のタンパク質は不対電子を持っていません。そこで、ラジカル化合物や常磁性金属イオンをタンパク質に結合させて標識するスピンラベル法が開発され、タンパク質の回転運動や標識間距離がESRにより精密に測定できるようになりました。これらの研究によって、相互作用して巨大化して働いているタンパク質複合体の立体構造とダイナミクスが解析できるのです。