Q13. 測定に必要な試料の質量は?

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ESRスペクトル(信号ともよぶ)は、その信号の大きさと線幅によって特徴付けられます。不対電子が多い試料では、縦軸(y軸高さ)方向に大きな変化を与えます。一方線幅とは、吸収線の横幅であり、しばしば吸収ピークの半分になる位置の幅で示されます(半値全幅 full width at half maximum, FWHMなどと呼ぶ)。ESRでは、スペクトルが微分型の曲線になるので、正のピークと負のピークの横幅をとってピーク間幅(peak-to-peak)で幅とする場合もあります。

 ESR装置の感度は信号の線幅にもよります。線幅が狭いほど、磁場スペクトルでの変化が明瞭に観察されるので、シャープな線幅を持つものは感度よく計れることになります。通常のESR装置の感度は、およそ0.1 mT程度のシャープなESRスペクトルをもつ試料に対し、109スピン程度です。つまり、一個の試料に、109 個の不対電子(スピン)があればスペクトルの変化として検出できると言う意味です。よって、試料中のスピン濃度が高ければ、少量でも測定できるし、スピン濃度が薄ければ大量の試料を試料管にいれる必要があります。通常のESR測定では、1012から1014程度のスピン数を持つ試料で測定がなされています。

 試料を入れるESRの共振器の大きさは、用いているマイクロ波の波長などによって制限があるため、通常のESR装置では、試料管(内径φ5-7 mm程度)、に高さ2-3 cm程度まで詰めることができます。比重2.4 g/cm3の試料ではおよそ200 mg程度まで入れることができます。

 実は、単一スピンを計測する特殊な手法なども開発されており、また通常のESR装置でも、コンピューターを使って弱いESR信号を時間的に積算・平均したりして、測定の感度を上げることは行われています。