Q17. マイクロ波を照射すると試料は加熱される?

Category: ESR50Qs

 通周波数が300 MHzから300 GHzの電磁波をマイクロ波と呼び、この周波数で、電場の正負が高速に入れ替わっています。この電磁波が持っているエネルギーが、電磁波を浴びているもの(サンプル)に移れば、これは暖められることになります。電子レンジでは、食品の中の水の電気的性質を使ってこれを加熱しています。

 サンプルが電流を流す性質(導電性)を持つ場合、マイクロ波の照射によって流れる電流(誘導電流)で発熱します(ジュール熱)。しかし、この誘導電流が流れるのはマイクロ波が入り込めるサンプルの表面付近だけです。一方、電流を流さない物質では、内部までマイクロ波が入り込み、特に誘電体とよばれる物質では、マイクロ波電場の変化によって分子が回転しようとして発熱します(誘電損失)。

 水分子は、くの字に折れた構造で、水素によるプラスと酸素によるマイナスが露わになった電気双極子を持っています。これが高周波電界の変化に従って揺さぶられるときに、熱が発生するのです。実際、電子レンジは周波数2.45 GHz、電力1 kW(キロワット)程度の出力で、ムラのないように回転台で温めていますね。一方、代表的なESRのマイクロ波周波数は9.5 GHzですが、パワーはせいぜい10 mW程度です。また共振器の中で、試料は高周波電場の最も弱くなる(逆に高周波磁場が最大になる)位置に挿入されていて、発熱しにくいようになっています。

 生体試料のように多量の水を含む試料を測定する時は、ESR測定用マイクロ波の周波数を1 GHz以下の電磁波(Lバンド)を用います。水分子の誘電損失の吸収ピークは、20-80 GHz にあって、低い周波数では、加熱が起こりにくくなります。

 電子レンジは、マグネトロンという発振素子で、2.45 GHzのマイクロ波を発生していますが、これは2.45 GHzが、マグネトロンで出しやすいためであり、また電波法という法律で加熱用の高周波を2.45 GHzに指定して、ほかの電波の用法を妨害しないようにしていることによります。