Q20. 温度変化させて測定するには
ESR測定でも試料の温度を変えながら、測定することが行われています。通常の共振器でも、ヒーターで加熱した温風を試料に当てることにより、100 ℃程度の測定が可能です。高温共振器を用いるとより高温の200 ℃程度での測定が可能です。いずれも共振器などを水冷する装置が必要です。
試料を低温にすることにより、周辺環境の熱による影響を減らして、室温では見えなかったESR信号を観測することなどができます。この場合、よく使われるのは液体窒素(-196 ℃)です。液体窒素にそのまま試料を漬け込むことで液体窒素温度での測定が可能で、このときは、2重の石英ガラスでできた魔法瓶(デュワー)を用いて、これに液体窒素と試料を入れて共振器に差し込みます。液体窒素は、気化して泡になりますが、これがコポコポと不規則に発生すると、ESRの共振測定条件を悪くしますので、様々な工夫が必要です。簡単に言えば、ESR測定部で泡の発生を防ぐことが必要で、気化するときに核となる氷の微小結晶やゴミが試料管につかないように注意することで、泡の発生は減らせます。また共振器内には乾燥空気などを流して、空気中の水分から霜がつかないように注意してください。
このほかに、可変温度装置(ヒーター)を用いて、液体窒素や液体ヘリウム(-269 ℃)を気化させて、低温のガスを共振器内の試料に吹き付ける方法があります。ガスの温度を変えることができるので、様々な温度でESR測定を行うことができます。これも、空気中の霜がつかないように、共振器まわりは常温の水を循環させて、一定温度を保持します。もしこの循環水を止めてしまうと、共振器の水循環層(ウォータージャケット)で水が凍結し、氷の膨張によって、共振器のウォータージャケットを壊してしまいますので注意してください。特に、冷却実験が終わって、共振器がまだ冷たい状態で、循環水のイッチを切ってしまうとこのトラブルが起こることがあります。