Q21. 同じサンプルでも、測定温度を下げるとシグナル強度が増加するのはなぜ?

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 シグナルの強度は、電子スピンの分極といわれるものと、スペクトルの線幅で決まります。電子スピンの分極とは、マイクロ波の吸収の対象になる、エネルギーの低い状態と、マイクロ波を吸収して出来るエネルギーの高い状態との間の、スピンの数の差になります。この電子スピンの分極は熱平衡状態では、温度が低いほど大きくなります(図参照)。これが測定温度を下げるとシグナル強度が増加する原因です。ちなみに、同じ温度では強い磁場を用いて高い周波数のESRを用いた方が、分極が大きくなり測定感度が高くなります。

 一方で線幅は溶液中の分子では温度が高いほうが分子の回転が速くなり線幅が小さくなることがあります。その場合は温度を下げるとシグナル強度が減少することになります。しかし,固体中では線幅はさほど大きく変化しない事が多く、上で述べた電子スピン分極の要素が大きくなります。