Q22. 同じサンプルでも液体(溶液)の場合と凍らせた固体の場合で、スペクトルが変化するのはなぜ?
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ESR50Qs
g値は、電子スピンが磁石としてどの程度のエネルギーを外部磁場より受けことができるか示す比例定数です。電子スピンがラジカルなどの分子に存在していると、スピンの磁気の性質は、分子の化学結合に役割を果たしている電子自身の公転運動によっても環電流が生まれ磁気の性質を生じます。この公転でスピンが受け取るエネルギーは化学結合でできる分子の形状によって変わることから、外部磁場方向に対する分子の配向によってg値が変化します。(磁気異方性)
しかし分子自身が液体中で高速に回転運動していると、この磁気異方性は平均化され単一のg値として外部磁場からのエネルギーを受け取ることになり、共鳴条件を満たす外部磁場は一定の値だけを示すことになります。一方、固体中でラジカルを観測すると磁気異方性により分子の向きによって変化するg値を反映した無数の共鳴磁場が与えられ、その結果スペクトルは広がります。磁気異方性の起源にはスピン同士の相互作用エネルギーによるスペクトルの広がりもあり、固体中では複雑な電子スピン共鳴スペクトルが得られることがあります。