Q32. 時間分解ESRではどのようなことがわかりますか

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 一般に使われているESRは定常状態ESRといって測定時にスペクトルを変換するために100 kHzの磁場変調という操作をします。これは写真機のシャッタースピードのようなもので、この操作によりスペクトルがより見やすくなる反面、100 kHzつまり10万分の1秒よりも速い反応は観測できないことになります。この問題を解決して、それよりも速い反応を観測する方法が時間分解ESRです。

 この方法はパルスレーザーとESR装置を使います。レーザーを照射してラジカルを発生させます。このラジカルは、生成直後は電子スピンが異常な分極をしていて、徐々に緩和して定常状態へと向かいます。この緩和がESR信号として観測されます。このような現象を化学的に誘起された動的な電子スピンの分極(Chemically Induced Dynamic Electron Spin Polarization, CIDEP)と呼びます。この現象を利用すると1千万分の1秒から100万分の1秒くらいの短い化学反応を観測できます。

 例としてラジカル重合反応が始まる反応を挙げます。レーザーパルスによって開始剤が光分解してラジカルが発生し、近くにいるモノマーに付加します。この反応は速すぎて磁場変調をかけるESRでは観測できませんが、時間分解ESRでは観測できます。スペクトルは3次元で、時間軸と磁場軸があることがわかります。