Q36. 超微細分裂とは?

Category: ESR50Qs

 電子は電子スピンをもつため、ミクロな磁石になっています。一方、一部の原子核は核スピンをもち、電子の2000分の1程度の弱い磁石になっています。原子や分子がもつ電子の一部はいろいろな場所に移動しており、時には原子核の位置に存在することもできます。このとき、電子スピンは核スピンの磁石から、外部磁場よりはるかに小さいが無視できない程度の大きさの磁場を受けます。これにより、電子のエネルギーが少しだけ高くなったり低くなったりします。原子核のもつ核スピンの大きさにより、マイクロ波の吸収に変化が生じ、等間隔で何本かのピークをもつようなESRスペクトルが観測されます。これを超微細分裂(超微細結合)と言います。近くにある原子核の種類により、分裂の本数や強度比は変わります。

 原子や分子の中の電子は存在できる場所が限られており、これを「軌道」と呼びます。電子は持っているエネルギーによって異なる軌道に存在します。s軌道とよばれる球型の軌道に電子がある場合、超微細分裂は電子と原子核の位置関係によらない(等方的な)一定の大きさになります。これをフェルミの接触相互作用と言います。また、p軌道やd軌道など、いびつな形の軌道の電子と核スピンの間の超微細分裂は、電子と核スピンの位置関係によって異なる大きさ(異方的)になります。このことを利用し、電子スピンがある位置にどの程度局在化しているのか(スピン密度)が分かります。また、分裂の本数と大きさから、そばにどんな原子核が存在するかが分かります。さらに、異方的な超微細分裂は、電子そのもの、あるいは原子や分子の運動によって打ち消されるため、その変化から分子の運動の状態を調べることもできます。