Q46. スピントラップ法

Category: ESR50Qs

 スピントラッピング法は1960年代に複数のグループによって見いだされた、短寿命ラジカル種を間接的に検出する測定手法の呼称です。この方法では、次式のように短寿命なラジカル種がスピントラピング剤に付加して生成する準安定なニトロキシドラジカル(スピンアダクトと呼ばれます)がESRの測定対象です。スピントラピング剤としては、下記のニトロソ、ニトロンおよび環状ニトロソ化合物が使用されています。

 たとえば、短寿命なメチルラジカル(·CH3)が2-nitropropane (MNP)の窒素原子上に付加すると比較的長寿命なスピンアダクト(MNP/CH3)と呼ばれるニトロキシドラジカルが生成します。このスピンアダクトのESR微細分裂には窒素原子の3本線の他に、MNPが補足したメチルラジカルによる4本線が観測されます。スピンアダクトの微細分裂から補足した短寿命ラジカル種の構造について定性的な情報が得られます。このように、通常は検出が困難な短寿命ラジカルをスピンアダクトとして間接的に検出し、その微細分裂から短寿命ラジカル種の構造が推定できるのがスピントラッピング法の利点です。この手法は、ラジカル重合反応系などに関与する短寿命ラジカル種の検出に応用され、その結果から反応機構などが議論されています。

 環状ニトロン化合物であるDMPOは、O2および·OHと素早くスピンアダクト(DMPO/O2およびDMPO/OH)を生成する優れたスピントラッピング試薬です。DMPO/O2およびDMPO/OHは異なるESR微細分裂を示すことから、O2と·OHを区別して検出できる唯一の手法として、特に生化学の分野で多用されています。さらに、DMPOとO2および·OHの2次反応速度定数(k1)が評価されたことで、DMPOを使用したスピントラピング法は抗酸化活性物質の活性酸素消去反応を対象とする反応速度論的な手法としても発展しています。