Q47. スピンラベル法について教えて下さい

Category: ESR50Qs

 スピンラベル法はタンパク質などの生体分子を対象としたESRを用いた構造解析の方法の一つです。この方法では目的物質にESRで検出可能なニトロオキシドラジカルなどのスピンプローブでラベルし、ESR測定から得られるスプンプローブの等方性回転運動(どの方向から見ても等しい自由運動)、異方性回転運動(物理量が方向に依存して変化する運動)、スピンプローブ同士の相互作用やスピンプローブとその周辺のラジカルとの相互作用(スピン-スピン相互作用やスピン交換相互作用)などを観測します。これらの情報から物質の運動性、脂質の中での配向度、スピン間の距離計測などの情報を得ることができます。

 タンパク質のスピンラベルでは、以前は任意な場所をスピンラベルすることが困難であったため、詳細な構造の解析が難しかったのですが、最近の遺伝子工学の発展から、任意の位置のアミノ酸の位置にスピンプローブを導入(部位特異的スピンラベル法:SDSL)することが可能になり、任意の二点間の距離情報を得ることができるようになりました。また、パルス波ESRを用いることで、この距離計測では旧来型の連続波ESRでは2.5 nmが限界だったのが、8 nmまでの計測が可能になってきています。

 構造生物学ではNMRとX線解析が重要な解析法として広く用いられており、それぞれ非常に有用で優れた方法ですが、NMRでは高次構造をとる巨大タンパク質や速い運動を捉えるのが困難な場合があることや、X線解析法では結晶化できない物質の場合は適応できないという欠点もあります。スピンラベル法は非結晶高分子タンパク質や膜タンパク質でもその運動性や距離情報を得られるという優位点があり、従来方法の不得意な点を補完・克服する方法として近年、広く用いられるようになってきております。