Q09. ESRとEPRの違いは?
これはよく質問されることです。ESRは Electron Spin Resonance Spectroscopy =電子スピン共鳴分光法 のことで、EPRは、Electron Paramagnetic Resonance Spectroscopy =電子常磁性共鳴分光法 のことです。同じ磁気共鳴法では、核磁気共鳴分光法はNuclear Magnetic Resonance (NMR) Spectroscopy で統一されているのに対し、ESRは二つの名前があるのです。歴史的にはEPRが先に使われたようですが、現在は同義語として扱われています。
ESR/EPRは我々の日常世界とは異なるミクロの世界の現象で、詳しくは量子力学で説明されるものですが、 量子力学で有名な、アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス(頭文字をとってEPRパラドックスとも呼ばれる)とは何の関係もありません。電子回路では等価直列抵抗のことをESR(Equivalent series resistance)と呼びますが、これも全く別の物です。略語は便利ですが、業界や文脈で異なることもありますから、文章を書くとき、初めてその語が現れるときには、正式名称を書いておきたいものです。
Paramagnetic とは、常磁性という意味ですが、これは、物質を磁性という尺度で分類するとき、強磁性体、反強磁性体、反磁性体などとよばれる物質と区別して用いられます。強磁性の物質とは、例えば磁石のように、定まった磁気(N極、S極)をもつことができる物質です。しかし常磁性物質とは、その物質の外から磁場があたえられたときのみ、弱い磁石のように振る舞う物質を言います。
つまりS極にはNが引かれ、N極にはSが引かれるますが、外の磁石を取り去ると、なにも磁気を示さない物質です。もう少し詳しく言うと、不対電子の持つ磁気モーメント(スピン、スピン角運動量ともいう)は、ちょうど小さな方位磁石のように振る舞い、外から磁場が与えられると、常磁性物質中に多数ある不対電子は、集団としてその外部磁場の方向にスピンの向きを変えるのです。実際のESRでは、マイクロ波が共振器の中でもつ高周波磁場と不対電子が作用して、ESR共鳴を起こします。